夏の楽しい思い出が、腕や足にできた痛々しい水疱(すいほう)によって、不快な記憶に変わってしまうことがあります。通常の蚊に刺された場合は赤い膨らみとかゆみが主ですが、なぜ一部の虫刺されは、まるで火傷をしたかのように水疱を形成するほど重症化してしまうのでしょうか。そのメカニズムを理解することは、正しい対処と予防への第一歩となります。水疱ができる根本的な原因は、虫が皮膚に注入した「毒成分」に対する、私たちの体の過剰な「炎症反応」にあります。虫が皮膚を刺したり咬んだりすると、体はそれを異物とみなし、免疫システムが作動します。ヒスタミンなどの化学物質が放出され、かゆみや赤み、腫れといった症状が引き起こされます。しかし、ブユ(ブヨ)やヌカカ、毛虫の毒針毛などに含まれる毒成分は非常に強力で、皮膚は深刻なダメージを受け、極めて強い炎症を引き起こします。すると、体はこの激しい炎症から組織を守るため、そして傷の治癒を促すために、血液中の液体成分である「血漿(けっしょう)」を表皮と真皮の間に大量に送り込みます。この滲み出てきた血漿が、薄い表皮を押し上げて溜まることで形成されるのが、水疱なのです。つまり、水疱は、体が「ここで非常に強い炎症が起きています!」と発している、目に見える警告サインに他なりません。この警告を無視し、最もやってはいけないのが、自分で水疱を潰してしまうことです。水疱を覆っている薄い皮膚は、外部の細菌から無防備な傷口を守る、天然の滅菌済み絆創膏のような役割を果たしています。これを無理に破ってしまうと、バリア機能が失われ、指先などから細菌が侵入し、二次感染を引き起こすリスクが飛躍的に高まります。その結果、化膿して「とびひ」などに発展したり、治った後もシミのような色素沈着や、醜い跡が残ったりする最大の原因となるのです。もし水疱ができてしまったら、それは単なる虫刺されではないと認識を改め、患部を清潔に保ち、掻きむしらないように注意しながら、流水で優しく冷やして炎症を鎮めましょう。