ゴキブリほどの知名度はありませんが、ハエもまた、驚異的な生命力を持つ昆虫の一つです。特に、彼らが生き延びる上で不可欠な「餌」と「水」に対する耐性は、私たちが想像する以上のものであり、その能力を知ることは、彼らを根絶することの難しさを理解する上で重要となります。まず、「餌」についてです。成虫のハエは、食べ物が全くない絶食状態で、一体何日間生き延びられるのでしょうか。研究によりますが、適切な温度と水分が与えられていれば、イエバエは「数日から一週間程度」は生存できると言われています。これは、ゴキブリが餌なしで一ヶ月以上生きるのに比べれば短いですが、それでも、家の中に侵入した一匹のハエが、すぐに飢え死にすることはない、ということを意味します。彼らは、その短い期間に、必死で餌を探し回ります。そして、彼らにとっての餌は、私たちが放置した食べ物だけでなく、キッチンの隅にこびりついた油汚れや、ゴミ箱から漏れ出す汁、あるいはペットのフンなど、家の中のあらゆる有機物が対象となります。ほんのわずかな汚れさえあれば、彼らはそれを栄養源として、さらに長く生き延び、産卵するエネルギーを得てしまうのです。次に、より重要なのが「水」です。ハエは、絶食よりも、水分が全くない「絶水」状態に、はるかに弱いことが知られています。水がなければ、彼らはわずか「1~2日」で死んでしまいます。これは、彼らの体が小さく、乾燥しやすいことや、活発に飛び回ることで、体内の水分が失われやすいからです。この事実は、ハエ対策において、非常に重要なヒントを与えてくれます。キッチンのシンクや、浴室の水滴をこまめに拭き取ること、ペットの水飲み皿を長時間放置しないこと、あるいは観葉植物の受け皿の水を捨てること。こうした、家の中の「水源」を断つという地道な作業が、ハエの寿命を縮め、定着を防ぐ上で、非常に効果的な兵糧攻めとなるのです。餌と水。この二つの生命線を、いかにして断ち切るか。そこに、ハエ対策の鍵が隠されています。