秋の穏やかな日差しの中、ハイキングや栗拾い、あるいは庭仕事に勤しんでいると、地面のすぐそばを黒っぽく小型の蜂が多数、せわしなく飛び回っている光景に出くわすことがあります。それは、決して無視してはならない、極めて危険な兆候です。その地下には、スズメバチの中でも特に攻撃性が高い「クロスズメバチ」などが築いた、通称「地蜂の巣」が隠されている可能性が非常に高いからです。地蜂とは、特定の蜂の種類を指す言葉ではなく、土の中や、木の根元、石垣の隙間といった、地面に近い場所に巣を作るクロスズメバチ属やスズメバチ属の蜂の総称です。彼らの巣は、地中の空洞、例えばネズミやモグラが掘った古い穴などを巧みに再利用して作られるため、外からはほとんどその存在をうかがい知ることができません。地表には、直径数センチ程度の、注意深く見なければ気づかないような小さな出入り口が一つか二つ開いているだけです。しかし、その地下には、最盛期には数千匹もの働き蜂が潜む、巨大な要塞が築かれているのです。地蜂の巣の最も恐ろしい点は、その「不可視性」と「巣との距離の近さ」にあります。木の枝にぶら下がっている巣であれば、遠くからでもその存在を認識し、危険を避けて通ることができます。しかし、地蜂の巣は、その存在に気づいた時には、すでに巣の真上や、すぐそばを歩いてしまっている、という状況に陥りがちです。そして、巣の上を歩いた際のわずかな振動や、草刈り機の音などが、巣の中にいる蜂たちにとっては、外敵による直接的な攻撃と認識され、防御本能のスイッチが一瞬にして入ります。その結果、巣穴から何百という蜂が一斉に飛び出し、侵入者に対して猛然と襲いかかってくるのです。見分けるポイントは、特定の地面の箇所に、黒っぽく小型の蜂がひっきりなしに出入りしているかどうかです。もし、そのような光景を見かけたら、それは間違いなく地蜂の巣のサインです。決して興味本位で近づいたり、石を投げ込んだりしてはいけません。静かに、そして速やかにその場を離れること。それが、この見えざる脅威から身を守るための、唯一にして絶対の鉄則なのです。