なめくじ退治と聞いて、多くの人が真っ先に思い浮かべる光景。それは、なめくじに塩を振りかけ、みるみるうちに縮んでいく、あの衝撃的な姿ではないでしょうか。これは古くから知られる駆除方法ですが、なぜ塩をかけるだけで、あれほど劇的な変化が起こるのでしょうか。その秘密は、中学校の理科で習う「浸透圧(しんとうあつ)」という科学的な原理に隠されています。浸透圧とは、簡単に言うと「濃度の違う二つの液体が、薄い膜を隔てて隣り合った時に、濃度の低い方から高い方へと水分が移動しようとする力」のことです。私たちの身近な例では、キュウリや白菜に塩を振ってしばらく置くと、水分が出てきてしんなりする「塩もみ」が、まさにこの浸透圧を利用したものです。さて、なめくじの体は、その約八割以上が水分でできており、その体を覆う皮膚は、水は通すけれども他の物質は通しにくい「半透膜」という性質を持っています。ここに、塩を振りかけるとどうなるでしょう。なめくじの体表面に、非常に濃度の高い塩水ができます。すると、浸透圧の働きによって、体内の水分(濃度の低い液体)が、皮膚という膜を通して、体外の塩水(濃度の高い液体)へと、猛烈な勢いで吸い出されてしまうのです。その結果、なめくじは急激な脱水症状に陥り、体は水分を失って縮んでいき、やがて死に至ります。これは、人間で言えば、全身の血液や体液を一瞬にして奪われるような、非常に過酷な状態です。この科学的な仕組みを知ると、塩をかけるという行為が、なめくじにとってどれほど苦痛を伴うものかが理解できるでしょう。また、駆除方法としても、庭の土壌に塩分が残留して植物の生育を妨げる「塩害」のリスクがあるため、決して推奨される方法ではありません。科学の現象としては興味深いものの、実践する際には、その影響と倫理的な側面についても、一度立ち止まって考えてみる必要があるかもしれません。
なぜなめくじは塩で縮む?浸透圧の科学を分かりやすく解説