ベランダに鳩の巣が作られ始め、その被害に悩まされている時、私たちの心には、一刻も早くこの厄介な問題を解決したいという焦りが生まれます。しかし、その焦りから、感情的な行動に走ってしまうと、思わぬ法的なトラブルに巻き込まれてしまう危険性があることを、私たちは知っておかなければなりません。鳩対策と、それを規制する「鳥獣保護管理法」との間には、時に理不尽とも思える、高い壁が存在するのです。この法律は、原則として、国や自治体の許可なく、野生の鳥獣(鳩もこれに含まれる)を捕獲したり、傷つけたり、殺したりすることを禁じています。そして、この法律の解釈において、最も重要で、そして私たちを悩ませるのが、「卵」と「雛」の扱いです。巣の中に卵や雛がいる状態で、その巣を撤去したり、移動させたりする行為は、中の卵や雛を捕獲、あるいは殺傷する行為と見なされ、明確な法律違反となる可能性が非常に高いのです。違反した場合には、一年以下の懲役または百万円以下の罰金という、重い罰則が科されることもあります。では、どの段階までなら、私たちは自分で対処できるのでしょうか。その運命の分かれ目となるのが、まさに「作りかけ」の段階です。巣の材料となる小枝や枯れ草が置かれているだけで、まだ巣の形になっておらず、そして何よりも「卵が産み付けられていない」状態であれば、その材料を「ゴミ」として撤去することは、法律上、何の問題もありません。これが、私たちが自力で合法的に対処できる、最後のチャンスなのです。しかし、巣が完成し、そこにたった一つでも卵が産み付けられてしまった瞬間、その巣は単なる小枝の塊から、法律によって保護された「生命を育む特別な場所」へと、その性質を変えてしまいます。その時点からは、私たちは雛が巣立つまでの一ヶ月以上、ただ見守るしかなくなるのです。この法律の壁の存在を知っているかどうかが、迅速な問題解決と、長期にわたる忍耐生活との、大きな分かれ道となります。