「ゴキブリ」という名前がついているだけで無条件に嫌悪され駆除の対象となってしまう不遇な虫がいます。その代表格がオオゴキブリです。名前にゴキブリと入ってはいますが私たちが台所で見かけるクロゴキブリやチャバネゴキブリとは生活スタイルが全く異なります。彼らは主に山林の朽ち木の中で生活しており都会の民家に侵入して食べ物をあさったり病原菌を撒き散らしたりすることはまずありません。体長は四センチメートル以上にもなりその堂々とした体格と漆黒のボディは昆虫マニアの間では「カッコいい」とさえ評されることもあります。クロゴキブリがツヤツヤとした脂ぎった光沢を持つのに対しオオゴキブリの光沢は鈍く重厚感があり動きも比較的緩慢です。驚くべきことに彼らは社会性を持ち家族で生活し親が子育てをするという微笑ましい一面も持っています。朽ち木を食べて分解し土に還すという生態系における重要な役割を担っている森の掃除屋なのです。しかし山間部の温泉宿やキャンプ場近くの別荘など自然豊かな場所では稀に室内に迷い込んでしまうことがあります。そんな時、発見者はその巨大さと「ゴキブリ」という名前の先入観からパニックに陥り殺虫スプレーを大量噴射してしまうことになります。これは彼らにとって本当に災難としか言いようがありません。もし山や森の近くで巨大な黒い虫を見かけ動きが遅くてなんとなく鈍臭い感じがしたらそれは害虫のゴキブリではなく森の住人であるオオゴキブリかもしれません。彼らは清潔な森の中で暮らしており人間社会の汚物とは無縁です。そっと塵取りに乗せて外の森へ帰してあげれば彼らは再び朽ち木の中で静かな生活に戻ることができます。名前だけで判断し嫌うのではなくその虫が本来どのような場所でどのように生きているのかを知ることは自然との共生を考える上で非常に大切な視点です。すべてのゴキブリが悪者なのではなく人間にとって不都合な場所に現れる一部の種類だけが害虫と呼ばれているという事実をオオゴキブリの存在は私たちに教えてくれています。