あれは、私が一人暮らしを始めて間もない、初めての夏のことでした。実家から送られてきた、たっぷりの新米を、キッチンのシンク下に置いた米びつに入れ、毎日の自炊生活を楽しんでいました。その日も、夕飯の準備をしようと、いつものように米びつの蓋を開けました。そして、計量カップでお米をすくおうとした、その瞬間。カップの中の米粒に混じって、数匹の小さな黒い虫が、うごめいているのが見えたのです。私は、一瞬、何が起こったのか理解できませんでした。しかし、次の瞬間、全身に鳥肌が立ち、思わず「ひっ!」と、小さな悲鳴を上げて、計量カップを取り落としてしまいました。よく見ると、米びつの中の、白いお米の表面を、たくさんの黒いゾウムシのような虫が、ゆっくりと這い回っていました。中には、米粒に頭を突っ込んでいるやつもいます。その光景は、私にとって、ホラー映画のワンシーンよりも、はるかに恐ろしいものでした。私はパニックになり、どうしていいか分からず、すぐに実家の母に電話をかけました。受話器の向こうで、私の半泣きの報告を聞いた母は、呆れたような、しかし優しい声で言いました。「ああ、コクゾウムシだね。シンクの下なんかに置いとくからよ」。そして、虫が湧いたお米の処理方法と、米びつの掃除の仕方を、丁寧に教えてくれました。その日の夜、私は、母に言われた通り、ベランダに新聞紙を広げ、懐中電灯を片手に、半泣きで米の中から虫を取り除くという、途方もない作業に追われました。結局、そのお米を食べる気にはなれず、私は泣く泣くすべてを処分しました。この苦い経験から、私は学びました。お米は「生鮮食品」であるということ。そして、湿気と高温が、いかに虫にとっての楽園となるかということ。それ以来、私のお米の定位置は、冷蔵庫の野菜室。そして、米びつには、あの日の悪夢を忘れないための戒めのように、真っ赤な唐辛子が、いつも数本、静かに眠っているのです。
お米に虫が湧いた!私のパニック体験談