現代の住宅環境では空調設備が整っているため忘れられがちですがかつて日本には土用の丑の日あたりに衣類や書物を陰干しする「曝書」という美しい習慣がありました。これは湿気の多い日本の気候の中で紙や布をカビや虫害から守るための先人の知恵であり現代においても最も効果的で環境に優しい本のメンテナンス方法です。虫干しに最適な時期は空気が乾燥している秋の十月から十一月頃の晴天が続く日がベストです。梅雨明けの七月下旬から八月上旬も伝統的な時期ですが近年の酷暑やゲリラ豪雨を考えると秋の方が安定して作業ができるでしょう。具体的な手順としてはまず晴れた日の午前十時から午後二時頃の湿度が最も低い時間帯を選びます。直射日光は紙を変色させたり糊を劣化させたりする原因となるため必ず風通しの良い日陰で行うことが鉄則です。本を立ててページを扇状に広げ風がページの間を通り抜けるようにします。ハードカバーなど自立する本はそのまま立てておけば良いですが雑誌や文庫本などは寝かせた状態で時々ページをめくりながら風を当てると良いでしょう。この時ページをパラパラとめくる動作だけでもこもっていた湿気が逃げ新鮮な空気が入り込むため効果があります。もし本棚のスペースに余裕がない場合やすべての本を取り出すのが大変な場合は本棚に入れたまま本を少し手前に引き出し背表紙の奥に隙間を作るだけでも空気の循環が促されます。虫干しを行っている間に空になった本棚の掃除も忘れずに行いましょう。棚板の隅には埃や虫の卵が潜んでいることがあるため掃除機で吸い取った後に乾拭きをしさらにアルコールや防虫効果のある精油で拭き上げれば完璧です。この作業は手間と時間がかかりますが本一冊一冊の状態を確認する良い機会でもあります。「こんな本を持っていたな」と再発見したり読み返したくなったりするのも虫干しの醍醐味です。また本に挟まったままの古い栞やレシートを見つけて当時の記憶に思いを馳せることもあるでしょう。虫干しは単なる防虫作業ではなく本との対話の時間であり自分の知的財産の棚卸し作業でもあります。忙しい日々の中で全ての本をケアするのは難しいかもしれませんが年に一度お気に入りの本棚の一角だけでも風を通してあげることで本はより長くその命を保つことができます。デジタル化が進む現代だからこそ物理的な重みを持つ本を慈しみ手間をかけて守るという行為には特別な豊かさが宿っているように感じられます。次の晴れた休日には窓を開け放ち本たちに深呼吸をさせてあげてはいかがでしょうか。