一匹のハエの寿命は、せいぜい一ヶ月。しかし、その短い生涯の間に、彼らが私たちの健康に及ぼす可能性のある「衛生被害」のリスクは、決して短くも、軽くもありません。ハエという生物は、その生態そのものが、病原菌を媒介するために、極めて効率的にデザインされた、危険な存在なのです。なぜ、ハエはそれほどまでに不衛生なのでしょうか。その理由は、彼らの食性と、その食事方法にあります。ハエは、人間の食べ物だけでなく、動物のフンや、腐敗したゴミ、あるいは病死した動物の死骸といった、およそ考えうる限り、最も不衛生なものを好んで餌とします。そして、彼らの食事方法は、非常に厄介です。ハエは、固形の食べ物を直接食べることができません。まず、自らの消化液を口から吐き出し、食べ物を体外で溶かしてから、それを再び吸い込む、という食事方法をとります。この過程で、彼らが直前に食べていた、フンや腐肉に含まれていた、サルモネラ菌や大腸菌、赤痢菌、コレラ菌といった、様々な病原菌が、消化液と共に、私たちの食卓にある食べ物の上に吐き出されてしまうのです。さらに、彼らの脚や体毛には、無数の細かい毛が生えており、ここに、フンやゴミの上を歩き回った際に付着した病原菌が、物理的に運ばれてきます。そして、私たちの食べ物の上にとまった際に、その菌をまき散らしていくのです。つまり、ハエは、自らの「吐瀉物」と「体」の両方を使って、効率的に病原菌を運ぶ、ダブルの媒介能力を持った、極めて優秀な運び屋なのです。ハエが一匹、キッチンに侵入し、調理中の食材や、出来上がった料理の上に、ほんの数秒とまっただけで、その食べ物は、食中毒のリスクをはらんだ、危険な食べ物へと変わり果ててしまう可能性があります。特に、まだ抵抗力の弱い小さな子供や、お年寄りがいるご家庭では、そのリスクは計り知れません。ハエの寿命は短い。しかし、彼らが一度でも残していった病原菌は、私たちの体内で、より長く、深刻な問題を引き起こす可能性がある。その見えない脅威を、決して忘れてはいけません。
ハエの寿命より長い!ハエがもたらす衛生被害のリスク