あれは実家の整理をしていた休日の昼下がりのことでした。何年も開かずの間にしていた押し入れの奥から段ボール箱を引っ張り出した私は懐かしさに駆られて中身を確認し始めました。小学校の教科書や図工の作品とともに底の方から出てきたのは重厚な表紙の卒業アルバムでした。埃っぽい匂いと共に蘇る記憶に浸りながら私は期待に胸を膨らませてページをめくりました。しかし次の瞬間私のノスタルジーは恐怖と嫌悪感へと変わりました。クラス写真のページを開いた途端に小さな茶色い虫が数匹カサカサと音を立てるかのようにページの上を這い回ったのです。私は思わず叫び声を上げてアルバムを取り落としてしまいました。床に落ちたアルバムからはさらに数匹の虫が這い出し畳の隙間へと逃げ込もうとしていました。これが私が初めてチャタテムシという存在を明確に認識した瞬間でした。紙魚とは異なりチャタテムシは一ミリメートル程度の非常に小さな虫ですが大量発生することが多くその視覚的なインパクトは強烈です。慌ててインターネットで検索してみると彼らはカビを主食としており湿気の多い場所を好むということが分かりました。つまり長年閉め切っていた押し入れは湿気がこもりカビが発生しやすい環境になっておりそれがチャタテムシにとっての楽園となっていたのです。アルバムの表面やページの隙間には目には見えない微細なカビが生えていたのでしょう。私はすぐさまマスクと手袋を装着し徹底的な駆除と掃除を開始しました。まず段ボール箱に入っていた他の本や書類をすべて庭に出し日光に当てて虫干しを行いました。チャタテムシは乾燥に弱いため天日干しは非常に効果的です。そして押し入れの中身をすべて出し掃除機で徹底的に吸い取った後にアルコール消毒を行いました。カビの胞子を除去しなければ再び彼らが戻ってくる可能性があるからです。この経験を通じて私は本の保管における湿気対策の重要性を痛感しました。本はただ置いておけば良いというものではなく生き物のように呼吸をしており環境の影響を強く受けるものなのです。特に段ボール箱は吸湿性が高く虫の温床になりやすいため長期保管には適していないことも学びました。今では大切な本はプラスチック製の衣装ケースに乾燥剤と共に入れるか風通しの良い本棚に並べるようにしています。あの日の背筋が凍るような体験は私にとって苦い思い出ですが同時に本を大切にするための教訓を与えてくれた出来事でもありました。本棚の整理をするたびにあの小さな虫たちの姿が脳裏をよぎり私は思わず換気扇のスイッチに手を伸ばしてしまうのです。