古書店を営む店主の方に話を伺うと本を害虫から守るための知識の深さとその情熱に圧倒されますが彼らが口を揃えて言うのは虫を出さないための予防こそが最大の治療であるという言葉です。ある老舗の古書店主は入荷した古書を店頭に並べる前に必ず行う儀式のような作業について教えてくれました。それは検品と呼ばれる工程で一ページずつ丁寧にめくりながらシミや破れだけでなくページの間に挟まった虫の死骸や卵の痕跡がないかを徹底的にチェックするのです。プロの目はわずかな紙の粉や小さな黒い点を決して見逃しません。これは虫の排泄物であり近くに生きた虫が潜んでいる証拠だからです。彼らによれば特に注意すべきは背表紙の内側にある空洞部分だと言います。ここは糊がたっぷりと使われている上に暗くて狭いため紙魚やシバンムシといった害虫にとっての最高の隠れ家となっているのです。プロの現場では疑わしい本が見つかった場合薬剤を使わずに冷凍処理を行うことがあります。本を密閉袋に入れ家庭用の冷凍庫で一週間ほど凍らせることで成虫だけでなく卵まで死滅させることができるこの方法は紙へのダメージが少なく薬品臭もつかないため非常に有効な手段として知られています。ただし急激な温度変化による結露を防ぐため冷凍庫から出した後は袋に入れたまま常温に戻るまで開封しないという細心の注意が必要です。また書庫の環境作りについてもプロならではのこだわりがあります。多くの古書店では空調管理が徹底されており温度と湿度が一年中一定に保たれていますがそれに加えて棚の材質にも気を配っています。桐などの調湿作用のある木材を使った本棚は高価ですが湿気を吸い取ってくれるため虫の発生を抑える効果が高いそうです。一方で安価な合板のカラーボックスは接着剤に含まれる成分が虫を誘引することがあるため貴重な本を保管する際には注意が必要だというアドバイスもありました。さらに興味深いのは虫除けとして伝統的な和漢植物を利用している点です。丁子や白檀といった香りの強い生薬を和紙に包んで本と一緒に箱に入れておく方法は平安時代から続く知恵であり現代の科学的見地から見ても忌避効果が認められています。化学合成された防虫剤は強力ですが成分によっては紙を変色させたりインクを滲ませたりするリスクがあるため古書の世界では天然素材が見直されているのです。私たちはプロのように完璧な設備を持つことは難しいかもしれませんが彼らの知恵を借りて冷凍処理を試したり天然の防虫香を使ったりすることは可能です。本という人類の知的財産を次世代に受け継ぐためには単に所有するだけでなく守り手としての意識を持つことが大切であることを古書店の店主たちは教えてくれています。
専門家が教える貴重な古書を害虫から守る知恵