リビングのカーペットの上や畳の縁に細長くて黒い虫がじっとしているのを見つけた時、多くの人は「ゴキブリの子供か?それとも新種か?」と警戒心を抱きます。体長は一センチメートルから二センチメートルほど、全体的に黒褐色で地味な見た目をしているため不快害虫の類だと疑われるのも無理はありません。しかしその虫をティッシュで掴もうとしたり指で突いたりした瞬間、「パチン!」という乾いた音と共に空中に高く跳ね上がるのを見て驚かされた経験はないでしょうか。これこそがコメツキムシという甲虫のユニークな特技です。彼らは仰向けにされると胸と腹の関節を器用に使いバネのように体を弾いて起き上がる能力を持っており、その動作がまるで餅つきや米つきをしているように見えることからこの名が付けられました。英語ではクリック・ビートルと呼ばれ世界中でその愛嬌ある動きが親しまれています。家の中に侵入してくるのは主にサビキコリやクシコメツキといった種類で、彼らは夜間の照明に惹かれて網戸の隙間などから迷い込んでくるだけの無害な旅人です。ゴキブリのように病原菌を運ぶこともなければ食品を食い荒らすこともありません。幼虫は土の中で他の昆虫の幼虫などを食べて育つ肉食性または雑食性ですが成虫になると樹液や花粉を食べるおとなしい性格になります。もし家の中で見つけたら敵対視するのではなく是非一度仰向けにしてその見事なジャンプ技を観察してみてください。何度ひっくり返しても諦めずに「パチン」と音を立てて起き上がろうとする健気な姿を見れば当初の恐怖心はどこへやら、つい応援したくなってしまうはずです。昔の子供たちはこの虫を捕まえてはおもちゃ代わりにして遊んだものでした。現代の家屋においては異物として排除されがちですが、彼らは私たちに自然界の精巧なメカニズムと小さな驚きを届けてくれるエンターテイナーでもあります。観察が終わったらそっと外の草むらに帰してあげましょう。きっと彼らはまたどこかでパチンと跳ねて誰かを驚かせているに違いありません。