私はかつて壁一面を本棚で埋め尽くすことに憧れ給料の多くを書籍代に費やすほどの活字中毒者でした。部屋には数千冊の蔵書があり古本屋巡りが週末の楽しみでした。しかしある年の梅雨明けに起きた事件が私の読書スタイルを一変させました。長期間出張で家を空けていた間にエアコンが故障し高温多湿のサウナ状態になった部屋で大量のチャタテムシと紙魚が発生してしまったのです。帰宅して本棚を見た時の絶望感は言葉にできません。お気に入りの画集はカビで張り付き文庫本の小口には無数の虫が蠢いていました。泣く泣く数百冊の本を処分し部屋中を消毒しましたが一度植え付けられた恐怖心は消えませんでした。本を開くたびに「また虫がいるのではないか」という不安がよぎり純粋に読書を楽しめなくなってしまったのです。そんな折に友人に勧められたのが電子書籍リーダーでした。最初は「紙の質感がない読書なんて」と懐疑的でしたが背に腹は代えられず導入してみることにしました。実際に使ってみるとその快適さに驚かされました。まず虫に食われる心配が物理的に存在しないという安心感は精神衛生上非常に大きなメリットでした。どんなに湿度が高くてもどれだけ放置していてもデータがカビたり虫に齧られたりすることはありません。また数千冊の本を手のひらサイズの端末に入れて持ち運べる利便性や文字サイズを調整できる機能も老眼が気になり始めた私にはありがたいものでした。さらに部屋のスペースが劇的に空いたことで掃除がしやすくなり結果として埃や湿気が溜まりにくい環境になり残した少数の紙の本を守ることにも繋がりました。もちろん紙の本ならではの装丁の美しさやページをめくる指先の快感そして古書特有の匂いといった情緒的な価値を完全に代替できるわけではありません。しかし本の本質がそこに記された情報や物語であるならば媒体がデジタルであってもその価値は損なわれないと考えるようになりました。今では新刊や小説は電子書籍で購入し写真集やどうしても手元に置いておきたい愛蔵版だけを厳選して紙で購入するというハイブリッドなスタイルに落ち着いています。虫との戦いに敗れた末の選択でしたが結果として私はより身軽でストレスフリーな読書生活を手に入れることができました。電子書籍は単なる省スペースの手段ではなく本を愛するがゆえに虫や劣化という物理的な制約から解放されたいと願う人々への現代的な解決策の一つなのかもしれません。紙の本への未練がないわけではありませんがタブレットの画面をスワイプしながら私は今新しい形の読書の喜びを噛み締めています。
害虫との戦いに疲れて電子書籍を選んだ私